あと30分・・・
腕時計で確認する。
彼はもうすでに1時間前から部屋の中に侵入し、ひそかに待っていた。
待つのは苦にならない。
どこにでもいる議員秘書のようなダークグレーのスーツ。
足元には小型のアタッシュケース。
ちょっと見ただけでは全く印象に残らない普通の彼はじっとたたずんでいる。
緻密なリサーチをし、計画は完全に練ってあった。
ターゲットが宿舎の部屋に戻る時間、その前数時間は部屋が無人になること。
ただ、いつも余裕をもってスタンバイしておくのが彼のスタイル。
急な事態にも十分に対応できるようにしてある。
今回の依頼があったのは1ヶ月前。ターゲットの議員の不正問題がニュース沙汰になる前だ。
世の中のほとんどの人が考える以上に深い闇の世界は存在する。
ただし、かれは特定のグループの人間ではない。
あくまでも依頼を受け、それを実行する。そして報酬をうけとる。
失敗はない。もう15年は闇の世界での第一人者だった。
第三者の関係を全く感じさせずに依頼を遂行する。
事故、病気、自殺・・・
これをパーフェクトにできるのは彼だけだった。
再度時計に目をやる。
そろそろ時間だ。
かすかにモバイルが振動する。
『soon』
ターゲットを監視しているLBからメールがはいった。
準備してきたものを確認する。
OK。
指先を特殊な非常に薄いフィルムでコーティングした指で、そっとアタッシュケースから用意してきたものを取り出した。
やがて鍵穴にキーが差し込まれる音がうす暗い室内に響いた。
「カチャッ」