『わぁ、映画みたい。』
坪谷恭子は店の入り口付近でハグをしている男女を見て、つい最近観た映画のワンシーンを思い出した。
『確か映画の2人は数年ぶりに顔を合わせるということになってたけど、あの2人もそうなのかなぁ。』
キレイなストレートの背の高い外国人女性と、日本人ながら彼女に負けないくらい背の高い男性を交互に見ながら映画のストーリーを思い返していた。あの映画は2人ともアメリカ人だったけど。
「・・・でね、」
目の前に座っている男の声で、意識はようやく入り口からそれた。初めて来るこの店で食事をすること、これも彼女の仕事の一部。恭子は男の話を強調する少し上がった声でそのことを思い出した。
恭子は東口にある南銀でキャバクラ嬢をしている。「一人じゃさびしいから、恭子も一緒にやろ~よ。」という友人の誘いで3ヶ月前から始めた。想像以上にハードな仕事ではあるが、嫌だから辞めたいといういつもの気持ちは出てこない。何に対しても飽きっぽい恭子には珍しいことなのだ。
今日は仕事は休みなのだが、店の客の小川と食事に来ている。いつもたくさんお金を使ってもらってるから、休みの日でも食事くらいはいいだろうと今日の誘いを受けた。
「・・・なんだよ。ハハハ」
男の軽い笑いに合わせ、恭子もニコリと笑顔を作り、フフと小さく笑った。
話の内容なんて大して聞いていない。ただ、相手に合わせて頷いたり、ケラケラ笑ったりすればいい。そのタイミングさえ逃さなければいいだけ。彼が欲するものは、会話の内容に沿った質問よりも、同意なのだから。
「それでさぁ・・・」
次の話が始まった。話を聞く姿勢を崩さず、表情もそのままに再び恭子の意識は男の話から逸れた。
恭子の意識は再び先ほどハグしていた2人に戻った。
『恋人どうしなのかなぁ。でもそれなら会った時、あんなに懐かしそうな顔は普通しないよなぁ。あ、でも、遠距離恋愛ならするかなぁ。』
映画の続きでも観るように2人の様子を眺めていた。
『女の人のまつ毛長っ。お人形みたい。あぁ~、外人は美人でいいなぁ。・・・あ、来週からパイレーツオブカリビアン始まるなぁ。オーランド・ブルームかっこいいよなぁ。沙紀と行く予定決めなきゃ。そういえば、今度の休みに買い物行こうって言ってたけど、どうすんだろ。行くのかな。今月もう余裕ないから中止になったらなったで嬉しいなぁ。でも、こないだみたサンダルやっぱり欲しいんだよなぁ。思い切って買っちゃおうかな。見たらまた悩んじゃうなぁ~。あ~・・・』
「・・・大丈夫?」
小川に顔を覗き込まれてフと我に返った。ちょっと意識をそらし過ぎてしまったようだ。
「あぁ、ごめんなさい。少しお酒が回ってきちゃって。お茶でももらおうかな。すいませぇん、ウーロン茶1つくださぁい。」
休みだからといって少し気を抜きすぎてしまった。ほんの数秒、小さな反省をしたものの小川の話が始まると再び意識は目の前の小川をすり抜けた。
『・・・で、結局あの2人はどういう関係なんだろう。』